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ON & OFF REPORT #02

野田村とスペインを
つなぐ料理『パエリア』

ON & OFF REPORT #02

野田村とスペインを
つなぐ料理『パエリア』

UPDATE:2023.02.28

写真・文:加藤 淳也

青森、岩手、宮城を跨ぐ三陸海岸。その最大の特徴は、世界三大漁場としてホタテや牡蠣、ウニやタコ、イカ、昆布やワカメなどの海の幸を届けてくれる海の豊かさ。そして、複雑な地形が織りなす奇跡とも言える風光明媚な『リアス海岸』と言えます。ドラマ「あまちゃん」(NHK)の舞台となった久慈市、そして野田村を経由し岩手南部の大船渡市を結ぶ『三陸鉄道』の沿線、車窓から見える景色はまさに『絶景』。美しいリアス海岸の景勝地がたくさんあります。

日本における『リアス海岸』と言えばここ三陸海岸を筆頭に、千葉の房総半島の南部や三重の志摩などの半島、福井から京都にかかる若狭湾、そして長崎の九十九浜が有名なですが、その名称のルーツは実はスペイン北西部のガリシア地方に由来しています。

『リアス(Rias)』とは、スペイン語で入り江を意味する「リア(Ria)」の複数形。のこぎりのように入り込んだガリシアの入り江から、この名が世界中に広まりました。

三陸海岸を有する『野田村』と、リアス海岸のルーツでもある『スペイン』はガリシア地方。

野田村 ON&OFF Village では、一見、何の接点もなさそうなこの2つの地域をつなぐ、文化について紐解いていきます。

野田村パエリアは
青春の味

野田村とスペインが大きくつながったのは2022年。野田村と岩手県立久慈工業高校の料理部の生徒が主体となって動き出した『野田村パエリアプロジェクト』がそのきっかけと言えます。

フライパンを意味するスペインの郷土料理『パエリア』は、海の幸や山の幸を1つのフライパンにたっぷりと盛り付けて炊きあげる米料理。学生たちは、この『パエリア』に野田村の食の魅力を詰め込もうと考えつきます。

全国各地の料理人を魅了する野田村の名産『荒海ホタテ』。高い衛生環境で海藻を中心にエサを与え育てられる野田村のブランド豚『南部福来豚』。有名ソムリエも絶賛する芳醇な涼海の丘ワイナリーの山ぶどうワイン『紫雫』。野田村に古くから伝わる、直煮製法で作られた『のだ塩』。そして自然豊かな野田村で獲れる新鮮な野菜や穀物。『北リアス』が育むさまざまな食材たち。

野田村が誇るこれらの素晴らしい食材の魅力を発信するために動き出したのが『野田村パエリアプロジェクト』です。まずは学生たちが地域のみなさんと協力して作ったパエリアムービーをご覧ください。

こうして完成したのが『野田村パエリア』です。

野田村の魅力を発信しようと動き出した学生たちが、このプロジェクトを通じて野田村でがんばる様々な生産者と出会うことで、今まで気づけなかった野田村のもう1つの魅力を発掘していく様子が伝わってきます。公開から1年で34万回も再生されたチャレンジムービーで生まれたパエリアはまさに『青春の味』。

2022年は野田村内で開催されるイベントなどで学生たちが調理実演したパエリアが振る舞われ、野田村の住民や訪れる観光客を楽しませてくれました。

野田村がスペインとつながり、世界へとつながるきっかけとなった『野田村パエリアプロジェクト』。可能性はまだまだ広がっていきます。

野田村パエリアで野田村を PR!
(写真提供:野田村観光協会)

“おいしい”がつなぐ
野田村の可能性

「いつか本場のパエリアを食べてみたい」

野田村の食材をふんだんに使った野田村らしさが自慢の野田村パエリアですが、いつしか久慈工業高校料理部のみんなはそんな希望を抱くようになりました。

そこで開催されたのが、青森市の人気スペインレストラン『グラナダ』のシェフのエンマ・サンチェスさんをゲストに招いて行われた『野田村パエリアテストキッチン』でした。会場は野田村 ON&OFF Village の拠点の1つでもある『庵日形井』です。

ゲストシェフのエンマ・サンチェスさん

野田村の『旬』を食べてほしい。そんな学生たちの想いから、季節によって食材が変わるのも『野田村パエリア』の醍醐味です。冬の野田村で手に入る新鮮な食材たち、そして味付けのポイントとなる『山ぶどうワイン』や『のだ塩』が、山奥にたたずむ築160年以上の伝統的な南部曲がり屋『庵日形井』へどんどん集まってきます。キッチンに次々と並ぶ食材を前に学生たちは目を輝かせます。

本格的なスペインの家庭料理を得意とするエンマさんは、店名にもなっているスペインの南部『グラナダ』地方出身。青森にはもう30年以上も住んでいるので、流暢な津軽弁で私たちに本場のパエリアの魅力、そして作り方を教えてくれました。

テストキッチンの様子を写真と合わせてご紹介していきます。自宅でも作ることができます。興味のある方はぜひお好みの分量・加減でチャレンジしてみてください。

野田村パエリアでは
おなじみの食材
『南部福来豚』登場

一口サイズにカットした肉にお好みで『のだ塩』をローリエと一緒に揉み込みます(スペインの本場ではうさぎ肉などのジビエを使うことも多いそうです)。

野田村パエリアのポイントは
自家製・地元産・お裾分け

出汁を取った貝はトッピングに!

豚肉を塩につけている間、食材の下処理を行います。今回は野田村を代表する食材の1つ『荒海ホタテ』。そして港であがった地元産のイカ、タコ、アサリを使います。下処理のポイントはしっかり水で洗って臭みを取ること(今回は濃厚な荒海ホタテで出汁を取りましたがお好みでその時の旬の食材でお試しください)。

野田村パエリアの
定義の1つ
山ぶどうワイン

肉に塩が馴染んだら、『山ぶどうワイン』を投入。野田村が生産量日本一を誇る山ぶどうを醸造して作るこのワインを時にブイヨンとして、または素材を引き立たせる隠し味として上手に使うのが、野田村パエリアの重要な定義の1つになります(調理の段階でアルコールは気化しますのでご安心ください)。もちろん残ったワインはパエリアと一緒にいただきます(お酒は20歳になってから)。

パエリアの基本のは
トマトスープづくり

スープのベースになるのは年中手に入るトマト、たまねぎ、ピーマン。

トマトは湯むきし、たまねぎとピーマンと一緒にしなしなになるまで炒めて一度火を通します。そしてホタテで取った出汁と一緒にミキサーにかけていきます(ミキサーがない場合は時間をかけて煮込みます)。

シンプルなスープなだけに、食材のポテンシャルが試されます。このタイミングで豚肉をもう1つのフライパンで炒めておくとスムーズです。*写真のいんげんはスープではなく具材になります。

パエリアパンの登場

意外と知られていないのですが、実は『お米』もおいしい野田村。本場スペインではバレンシア米をはじめとするパエリア専用の品種のお米を使うことがありますが、野田村パエリアではもちろん野田村産のお米を使用します(野田村さんのあわやひえを混ぜればなおよし)。本場の食感に近づけるために生米をオリーブオイルで炒めるのがエンマさん流。

その後、お米を炒めたパエリアパン(大きなフライパンでも可)に液状にしたトマトスープ、火の通りにくい具材の順に投入(鮮度のいい食材はで炊き過ぎないように)。フタをして(ない場合はアルミホイルなど)、食材にじっくり火を通しながら、時間をかけて水分を調整していきます。徐々に少しずつお米にスープを吸わせていくイメージです。

軽量カップや計測器を使わないエンマさんによる調理法はまさにママの本格家庭料理。その日の仕入れや食材のコンディションはもちろん、その時の天気や気分さえも読み取るかのように、食材や調味料、火にかけたフライパンに五感をフルに使って向き合う姿が印象的でした。そんな中で教えてくれたのは、何事も「過ぎる」のはよくないということ。塩も、スープも、水分も、足らなければ足せばいい。旬の食材や料理する環境はその時々によって変わるから、既存のレシピやルールにとらわれることなく、自分の感覚で、徐々にカメラのピントを合わせるように作り込んでいくという『野田村パエリア』の真骨頂とも言える気づきを、エンマさんから学ぶことができました。

野田村のお米や食材でパエリアを作るのははじめてだというエンマさん。時々フタをあけながら、真剣な表情で、様子を確かめていきます。

「本当はフタはなるべく開けない方がおいしくできるよ」

笑いながらそう話すエンマさんのパエリアが、少しずつ完成に近づいていきます。

スペイン仕込みの
野田村パエリア

火加減に注意しながら、トマトスープを十分に吸ったお米の芯がなくなったらパエリアはほぼ完成です。塩も胡椒も「だいたい」。味見をしながら少しずつ『のだ塩』を振って味を整えていきます。誰でも気軽に作れる料理と言いながらも、所々に見られるエンマさんの熟練の技。はじめての食材、はじめて使うキッチンでも、慣れた手つきで20人前のパエリアが炊き上がっていきます。

この日はより本格的な現地の味を再現するために、スペインではスーパーマーケットなどで手に入る
グリルパプリカのオイル漬けとレモンを特別にトッピング。彩りも鮮やかな仕上がりとなりました。
 

仕込みから提供までは約2時間。エンマさんの噂を聞きつけた地元の人たちも続々と合流し、それぞれのスタイルで、手伝ったりおしゃべりしたりしながらみんなで作る自由な時間。料理と一緒に『思い出』も作るのが、野田村パエリア流なのです。 

念願の本場シェフによる本格的なテストキッチン。学生たちにとっては待ちに待った“もう1つ”の『野田村パエリア』の試食会です。エンマさんのパエリアを試食した学生からは「おいしい」という声はもちろん、さまざまな意見が聞こえて来ました。

「パエリアの魅力をもっと広めたい!」
「野田村中でパエリアが食べられたら!」
「もっとおいしいパエリアを作りたい!」
「野田村パエリアには可能性がある!」
「次はどんな食材で作ろうか⋯」

『野田村』の魅力を発信したいというみんなの想いが、エンマさんのパエリアを通じて醸成されていきます。もちろんそれは学生だけじゃなく、このプロジェクトに関わる私たちも。

野田村とスペインをつなぎ、野田村の魅力を世界へはばたかせるためのアイデアとしてはじまった『野田村パエリアプロジェクト』。スペインと東北をこよなく愛するシェフ・エンマさんの協力のおかげで無事終えることができました。

本物を体験し、基礎を知るということが、より自由な可能性へとつながっていくということを今回のテストキッチンで教わった気がします。

野田村 ON&OFF Village では、これからもスペインの文化を通じて、野田村の魅力や可能性を掘り起こしていければと思います。

次回もお楽しみに!

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