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ON & OFF INTERVIEW #05

野田村をもっと豊かにする
スペイン人の暮らしと生き方

ON & OFF INTERVIEW #05

野田村をもっと豊かにする
スペイン人の暮らしと生き方

UPDATE:2023.03.24

イラスト:石橋 暸
文:加藤 淳也

「野田村の魅力をもっとたくさんの人に広めたい」

そんな思いから動き出した岩手県立久慈工業高校の料理部の生徒たちによる『野田村パエリアプロジェクト』。野田村とスペインという、一見何の接点もなさそうなこの2つの地域でしたが、青森で人気のスペインレストラン『グラナダ』のシェフのエンマ・サンチェスさんやスペイン在住のピアニストで作曲家の川上ミネさんとの交流、世界中を旅したことで野田村の民宿&カフェ『苫屋』を運営するに至った坂本夫妻のお話によって、どんどんそのつながりや新たな魅力が見えてきました。

それはリアス海岸を有するという『地域性』や『環境』だけにとどまらず、野田村やスペインに流れる『時間』や、人の『生き方』にまで広がっていきました。

さて、全4回にわたってお届けする『野田村パエリア』を巡るスペインの旅も、今回で最終回です。

登場いただくのは元外交官で、元駐スペイン特命全権大使の水上正史氏です。かつて駐在したスペインでの生活や経験をもとに、ここでしか聞けないスペインでの暮らしや、野田村パエリアをもっと深掘りしていくためのヒントを伺いました。

聞き手は、前回みなさんにおいしいスペイン料理をふるまってくれたピアニストの川上ミネさんです。

ヨーロッパにおける
第五の大国『スペイン』

水上:今日は私が駐在していたスペインという国についてお話しさせていただきます。高校生のみなさんにもわかりやすく説明すると、まずスペインはヨーロッパの中にある国です。ただ、ヨーロッパにはどんな国がありますか? と聞くと大体の人は「イギリス、フランス、ドイツ、イタリア」が出てきます。大きな国ですね。では5番目はどこの国かと聞かれると、人口、国の面積、GDP(国内総生産)で見るとスペインなんです。

では、どんな産業で成り立っているかというと、野田村との共通点を探って農業や漁業が盛んな国というイメージを持つかと思うのですが、実は工業国なんですね。ヨーロッパの中でもたくさんの工場を持っている国です。車の生産量においてもドイツに続きなんと2番目がスペインなんです。日本で知られる有名なメーカーがあるわけではないのですが、NISSAN や HONDA、ルノーなど、各国のメーカーの車をライセンス生産できる素晴らしい技術力がスペインにはあるんですね。

地形的には、ご存じの通りまわりが海と山に囲まれています。スペインの中心部のマドリードは標高5〜600ほどの台地になっていますので、東西南北にあるそれぞれの海から登った先に非常に広い平地があるというイメージですね。そして漁業に関して言うと、その4つの海の全てが違う海なんですね。海が違うということは海水の温度も獲れる魚も違うということなのですが、その各地の海産物がマドリードに集まり、たくさん消費されているというわけです。不思議なことに、日本だと市場はたいがい海の近くにあるんですが、スペインは海から遠いマドリードに大きな市場があるんですね。

海と山に囲まれた
スペインの街並み

地域によって異なる特徴を持つ自然環境。異国情緒の漂う風景もあれば、東北の沿岸部の景色を彷彿させるような、どこか懐かしさを感じる風景まで。
(写真:川上ミネ)

水上:そんなスペインという国ですが、私がはじめてスペインを訪れたのは昭和53年から2年間の語学研修のためでした。その40年後にスペイン大使をやることになるのですが、40年の間にすごく変わったなと感じましたね。世の中ってこんなに変わることができるんだと。つまり当時のスペインはおそらく貧しかったんでしょうね。両親が裕福な隣国に出稼ぎに出てしまって、親がいないという若者が多かった。日本の出稼ぎとは少しわけが違い、夫婦で出てしまうんですよね。スペイン人は情熱的ですからね。一度出てしまったらその土地に根付いて帰って来ないのではないかと心配して妻もついて行ってしまうんです(笑)。

残された子どもはおじいちゃんおばあちゃんに育てられ、中学、高校になると寮で暮らしながら学校に通うようになります。そして、それが珍しいことではないんですね。『社会全体で子どもを育てる』という風潮が当時のスペインにはあったんです。寮に入っていても「特に寂しいわけではなかった」と彼らは話しています。社会が支えていたんです。

そしてそんなイメージをスペインに抱いたまま40年後に行くと驚きますよね。EU に加盟して、お金持ちの国になってたんですね。両親が出稼ぎに出ている家などほぼないと言うんです。むしろ東ヨーロッパから労働のために出稼ぎに来る人が増えていた。スペインという国は40年と言う短い期間で、本当に豊かになった国なんですね。

豊かさを手に入れた
スペイン人の生き方

水上:ここからは、よりスペインの魅力を知ってもらうために、スペイン人の『生き方』がわかるいくつかの例を紹介したいと思います。

まずレストランに行くと日本とスペインの違いが出ます。みなさんはレストランや居酒屋に行く時、友達同士や仕事仲間など、近い世代の同性同士で行くことが多いですよね? それとは異なりスペインでは、特に週末ですが、家族みんなで食べに行くことが多いんです。それは両親とだけではなく、おじいさんおばあさんや親戚も入ってきます。レストランに行くとそんな家族連れを店内のテーブルにたくさん見かけることができます。聞けば必ずと言っていいほど誰かの誕生日などのお祝いをしているんです。しかもわりとちゃんとシャツやジャケットを着て、女性の場合はしっかり化粧をしてくるんです。つまり、いつも一緒にいる家族なんだけれど、こういう時にはきちんと集まって、おいしいものをみんなで食べようということを大事にしているんですね。

それで今回『野田村パエリア』というアイデアを聞いた時に思い浮かんだのは、味や作り方だけではなく、家族や友人を大切にしたいと思うスペイン人の生き方も、参考になるのではないかということでした。例えばみなさんの家族の誕生日のお祝いの時に、その人の好きな具材をパエリアにたくさん乗せてあげて作ってみるとか、そういうのが『野田村パエリア』の要素としてあってもいいんじゃないかと思いました。

水上:次に、スペインはイスラム教国に占領されていた時代があるのですが、その占領は何年続いたと思いますか? 実は300年続くんです。ちょっと来て、戦争をして支配して去って行ったという話ではないんですね。江戸時代よりも長い時間をかけて少しずつ占領されていったんです。その頃には、カトリックの人もイスラムの人もいましたしユダヤ人もいました。宗教も文化も習慣も違う人たちが殺し合いや奪い合いをするわけでもなく、共存していたのが、スペインなんです。教会の上にモスクを建てるようなことはせずに、住む場所を分けることでお隣さんとして仲良くしていたんですね。近代はキリスト教の国になっていますが、観光の要になっているのはイスラム時代から残っている鮮やかな建築物です。決してよそ者扱いしていないんですよね。仲良しというわけではないんですが、お互いが寛容である。それで言うと多神教の日本も似ているところがあるかもしれません。いろいろなことを受け入れてきた国です。

そんな時、この寛容さが『野田村パエリア』にとっても必要だと考えました。例えば、野田村の名産の『南部福来豚』を入れてしまえば観光に訪れたイスラム教の人たちは食べられません。牛を入れると今度はインドから来てくれた人たちは食べられなくなってしまいます。海外の観光客が増えると文化も考え方も多様化していくので、鶏も魚介も食べないという人も出てくるかもしれない。そんな時に、『野田村パエリア』で、どうおもてなしをするのかを考えれば、旬の採れたての野菜を中心にするとか、タンパク質の豊富な野田村の『豆』を主役にしてみるとかいろいろやり方はあるような気がします。

水上:お隣の青森では丼にその時の旬のお魚を乗せてお得に楽しめる『のっけ丼』というのがあるように、食材が豊かな野田村なので、訪れた人によってトッピングできる『のっけパエリア』というのも、野田村パエリアの魅力になっていくんじゃないでしょうか。

私が好きなスペインのレストランでも、パエリアを頼むと『海』『山』『畑』とメニューが分かれているんですね。畑は野菜。山は伝統のうさぎ肉、海だとイカスミなどが楽しめるんですよね。まさに『野田村パエリア』という感じがしますよね。

相手に応じて食材が変えられるというのは本来『パエリア』の魅力であって、それを上手に『おもてなし』の心を混ぜながら変えていくというのが、野田村の文化であり名物になっていくんじゃないかと思いました。

スペインと野田村の
「おいしい」つながり

川上さんが暮らすガリシア地方で水揚げされた海産物

水上:川上さんにはいろいろな場所に連れてってもらい、いろいろなものを食べて来ましたが、スペインのレストランの仕入れには驚きましたね。客として食べたいものを前日までにオーダーしないとレストランは用意してくれないですからね。日本みたいに来るお客さんを想定して仕入れておくということはあまりしないんです。新鮮な貝を食べたいと伝えてはじめて市場や漁師さんのところに行って買い付けてくれるんです。こんなやり方があったんだと思いました。

川上:おかげでとても新鮮な貝のお刺身が食べられたりするんですが、私たちがあまりにもおかわりしていたら「もうありません」って言われてしまいました(笑)。

 

さまざまな海であがったタイプの違ったそれぞれの魚を食べ比べるのも主流。
中でも『いわし』は川上さんの好物。
イスラム教国時代にはなかったトマトはコロンブスによって南米から輸入された。
今ではパエリアをはじめ、スペイン料理に欠かせない食材。
カレイがたくさん獲れると事前に漁師さんから連絡があり、みんなで仕事を休んででも食べに行く。
オリーブオイルでじっくりと揚げるように煮ていく料理。
キャプション:スペインのコロッケ、その名も『クロケッタ』。
余ったパエリアなどを小麦に和えて揚げて翌日のお弁当などで持っていく。
野田村パエリアでも応用できそうなアイデアだ。

スペインを象徴する
『ホタテ』だらけの町

川上さんが住んでいる町は別名『ホタテの町』。古くからホタテの殻は皿にもなり包丁にもなり、水を飲むコップにもなった。建物の建材としても使用される。
(写真:川上ミネ)

水上:川上さんのスペイン料理の話を聞いて思い出したんですが、ある日、スペインで人気のレストランを訪れていわし料理を頼んだら缶詰が出てきたことがあったんです。もちろんスペインやポルトガルは缶詰や瓶詰めの文化が栄えてますし、技術もすごいのですが、シェフに聞いてみると変に調理するよりもこっちの方がおいしいんだと胸を張って言うんですよね。ある店では日本の有名なインスタントコーヒーの瓶が出てきて、好きな濃さで淹れるのが一番だって言うんですよね。最初は驚いたんだけれど、これはこれで正しいのかなと思ったんですよね。

そこでしか食べられないというのも大事なんだろうけれど、その食材のおいしさを知ってる人が胸を張って「おいしい」と言えるものであれば、缶詰だろうが、どういう形でもいいという柔軟さをスペインでは知りました。

例えば荒海ホタテの缶詰をはじめ、野田村パエリアの材料になりうるものが日本全国で手に入れることができるかもしれない。

野田村の人たちが「これはおいしい!」と胸を張って言えるものさえあれば、東京の銀座で野田村の味を楽しめる日が来るかもしれない。野田村も特産物には、この先の可能性がたくさんあるなと感じました。

今回はお呼びいただきありがとうございました。

全4回を通じて見えてきた、野田村とスペインのつながり。そして野田村パエリアを巡る物語。野田村の特産品でもある『荒海ホタテ』などの魚介や『のだ塩』、『南部福来豚』、そして唯一無二とも言える涼海の丘ワイナリーによる『山ぶどうワイン』などの食材にこだわってきた野田村パエリアでしたが、スペインの文化を知ることでわかったのは、食材を大切にしながら楽しむことはもちろん、パエリアづくりをきっかけに集まって交流することや、みんなで分け合ったり協力し合う気持ち、そしてゆっくり流れる時間の豊かさを感じることが大切だということでした。それが『野田村パエリア』をより深く、おいしくするためのスパイスになっていきます。

水上元駐スペイン大使が教えてくれた、『もてなす気持ち』はきっと、この先の野田村の可能性を示唆するものです。今後も、野田村の食材は「おいしい!」と胸を張って言いながら、みんなで『野田村パエリア』を楽しんで行けたらと思います。

そして、引き続き、野田村の魅力を深掘りしていく『野田村ON&OFF Village』 をよろしくお願いします。

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