野田村 ON&OFF Village

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ON & OFF INTERVIEW #03

野田村パエリアを巡る冒険
苫屋・坂本夫妻インタビュー

ON & OFF INTERVIEW #03

野田村パエリアを巡る冒険
苫屋・坂本夫妻インタビュー

UPDATE:2023.03.15

絵:石橋 瞭
文:加藤 淳也

野田村 ON&OFF Village の先に『苫屋(とまや)』という少し変わった宿がある。築160年以上を超える『南部曲がり家』を改築した、荘厳な佇まいの家には電話もインターネットもなく、旅人は手紙かハガキで予約を取る。

昔ながらの炉端を囲みながら、無農薬で育てられた野菜や、野田のおいしい食材を使った料理をいただく。自然の中を散歩したり、満天の星を眺めたり、時にお酒をたしなみながら旅の話をしたり、聞いたりする。そして川のせせらぎや風の音、虫の鳴き声などを聞いて眠りにつく。

ここだけでしか味わうことのできない特別な時間の流れ、暮らしぶり、景色、体験、料理。そのすべてに魅了されたファンが、全国各地からたびたび訪れる。『自分らしさ』を取り戻すことができる、ゆっくりとした時間の流れは、旅人にとって、最高のプレゼントなのだ。

そんな『苫屋』を運営するのは、野田村という桃源郷に移り住み30年の坂本夫妻。いまも「まだ旅の途中」と話す2人にとって、ここはとても居心地が良い場所だ。しかし実は以前は世界中を旅するバックパッカーだった。アイルランドを起点にしたヨーロッパ横断の旅先には、『野田村パエリアプロジェクト』のきっかけともなったスペインもあった。

苫屋の坂本久美子さんと坂本充さん

なりたい大人になるために

今回の ON&OFF インタビューでは、人生を旅するように生きてきた坂本夫妻の世界の歩き方、旅での交流などのエピソードを通じて、世界から見渡す野田村の魅力、そして、野田村パエリアプロジェクトを軸としたこれからの野田村の旅のあり方を考えていけたらと思います。

—— まずふたりが世界を旅するようになったきっかけを教えてください。

久美子さん:もともと看護師だったんですが、22歳の時に医者と対等に話ができる看護師になりたいと思ってイギリスへ。当時はサッチャー政権でとても貧しく、町にあふれる浮浪者に対するボランティア活動を行っていました。そこで夫と出会い、一度帰国して今度は単身でニューヨークに渡って5年ほど忙しく暮らしていました。都会の暮らしで自分を見失いかけていた時に、ロンドン暮らしをしていた夫に誘われてアイルランドへ。そこから一緒に日本を目指すようにヨーロッパを横断します。ヒッチハイクやテント泊を繰り返して1年かけて日本へ帰ってきました。30歳過ぎたあたりですかね、野田村へ住むことになります。

充さん:私の場合は20歳くらいの頃から、「大人になるってどういうことなんやろうな」って考えていて。大人になったら平気で嘘をつくような人間にならなあかんのかなって悩みがあったんですよね。このままただ社会人になるのかなぁなんて考えながら本屋さんで立ち読みしていたら『ワーキングホリディ』っていうのがあるって見つけて。見つけてから2ヶ月後にはロンドンに行っちゃってましたね(笑)。向こうで仕事を探すんですが、もうちょっと英語力をつけないとなと思い、日本料理屋でアルバイトしながら暮らしていましたね。

しばらくするとお金が貯まるので旅行をするようになるんですけど、漂うようなのが好きなんですね。特に国境地帯が好きで。いわゆる僻地と呼ばれる『田舎』ですね。人も少ないし自然が多い。文化も混ざり合うので独特なのもおもしろいし。で、「そういえばユーラシア大陸から見たら日本も僻地やな」って気づくんですね。もしかしたら日本も知らないだけでおもしろいかもなと。それで彼女を呼んでアイルランド、イングランド、フランス、スイス、イタリア、旧ユーゴスラビア、ギリシャ、トルコと、ヨーロッパを横断しながら2人で日本を目指すわけです。それからずっとここに来るまで漂いながら暮らしていました。心が何かに とらわれることなく軽くなる感じがしたんですよね。

—— ここまで話していただいて、大事なスペインが抜けているような気がするんですが(笑)

充さん:そうだそうだ(笑)。スペインは30歳くらいの時に旅行で行ってました。首都のマドリッドでしたけどね。

—— よかった(笑)。先ほど文化が混じり合う『国境地帯』が好きだとおっしゃってましたけど、スペインも歴史的に見てもさまざまな文化が交わる国で有名かと思います。イスラム教の時代もあればキリスト教の時代もあったり。建築物を見ても異国情緒がすごい漂っていると思うんですが、スペインはどういう印象でしたか?

充さん:おもしろかったですね。80年代なのに普通に馬車が走っていましたからね。スペインは海外からの観光客の多い地中海のイメージから明るい国という印象があるかもしれないんですが、北海岸の方に行くと岩手みたいな空気になるんですよね。旅行客もスペイン人しかいない。日本人が野田村に来てホッとするような感覚ですね。

 

—— スペインでは何が楽しかったですか?

充さん:バスクのサン・セバスティアンでのバル巡りだね(笑)。言葉がわからなくても、目の前に並んだ大皿の惣菜から選んで食べられるんでね、楽しかったですよ。アイルランドが旅人を招き入れる旅だとしたら、スペインはバルに出向いて出会う旅という感じが、僕の経験からはしましたね。

旅で見つけた
『時の流れ』

—— たくさん旅をされてきて、思い出に残っているエピソードはありますか?

久美子さん:一番近くのお店まで買い物に行くのに10キロもあるという田舎に連れて行ってもらった時に、慣れないヨーロッパ式の自転車をドイツ人のカップルに借りれたのでそれを運転して店まで向かったんですが、途中で転んで両腕を骨折してしまったこともありました。誰も知っている人がいないアイルランドの田舎の病院で。でも、看護師さんたちがすっごく優しくて。

—— 海外旅行先で骨折とかしたらすごく不安になるじゃないですか。でもすごく楽しそうにお話しされてますよね(笑)。そういうトラブルも楽しめることがすごいと思いました。

充さん:世話してくれた看護師さんたちがよくしてくれてね。「これはアイルランドからの贈り物だ」って言うんですよ。私たちがアイルランドを忘れないようにするためのプレゼントだって。

久美子さん:そんなプレゼント受け取ったら忘れられないですよね(笑)

—— それはすごいプレゼントですね!

久美子さん:そのまましばらく治療のために田舎町に滞在することになるんですが、時間の流れが野田村みたいにゆっくりすぎて、会話もゆっくりなので英語を忘れてしまうかも!って思うことがありました。あんなに英語圏で暮らしていたのに言葉がわからなくなってしまって。ただ、その時に出会ったおばさんが私に優しくて、「私たちには時間がたくさんあるから、あなたの言葉をゆっくり聞くよ」と言ってくれたんです。その時に、やっと「のんびりでもいいんだ」とわかって、英語の感覚を取り戻したというか。改めて理解したり聞いたりできるようになったんです。そこも野田村と同じリアス海岸の海辺の港町で、野田村にすごく似てる場所でした。野田村に来て「私はここが好きだ」と思った理由は、その『時の流れ』を感じたからですね。誰も急げ!と背中を無理に押してこない。我先にと行こうとしない。「なんてきれいなところなんだ」と思いましたね。

—— 時がゆっくり流れているからこそ、手に入れられるものがあるんですよね、きっと。忙しく生きていると見落とすさまざまなことがあるように思います。ゆっくり腰を据えて考える時間とか。いい大人になるというのはそんな『時の流れ』がわかることなのかもしれません。

充さん:63年生きてますけどね、やっぱり『欲』というのが邪魔するんでしょうね。いまだに時の流れを追っかけてしまう時がありますね(笑)。本当は時の流れと共に、流れるように生きたいんですけど。まだまだです。

—— 充さんがまだまだなら、私なんか欲の塊ですよ(笑)

充さん:いやいや、欲があるということは向上心があるということですよ。大丈夫です。

久美子さん:ただ、生まれながらに野田村にいると、その『時の流れ』に気づきにくい場合があるのかもとは思います。私はよそから来たから気づけたのかもしれません。どこにいても1分は確かに同じ1分なんですが、都会や生まれた町にいると1分っていう感覚なんてなかったような感じがするんですね。それが1分なのかも10分なのかも関係なく、何かをするための1つ1つの単位というか。ヨーロッパの田舎を旅している時や、野田村に来て気付かされたんですが、時間っていうのは「ここで生きている」ということを、心臓の音がリズムとなって『鼓動』で刻むということなんだなって。そんな気がします。

ちなみにスペインの人たちは、四国のお遍路みたいにガリシア州のサンティアゴ大聖堂まで徒歩で巡礼をするんですが、聖堂に向かう時もみんな『歩くスピード』を大切にしているんですよ。観光客みたいに車でぴゅーっと行ってしまうのではなく1歩1歩、歩いて行くんです。

—— そうなるとただの観光ではその土地に流れている『時の流れ』を感じるのは難しいのかもしれませんね。例えば表向きではない『暮らし』の中を歩いてみるとか、そこに住んでいる人と話してみるとか。その土地にかける時間をもっともっと増やすことで、我々はその土地ならではの『時の流れ』に改めて気づけるのかもしれません。そう思うと坂本ご夫妻は、表層的な旅ではなく、暮らしの中を歩くことで、より深い旅をされてきたのだなと感じました。

もしかすると、野田村 ON&OFF Village もそうですが、野田村の『観光』の可能性を考えた時に、私たちが提供できるものというのは、暮らすように交流することで生まれる『時の流れ』なのかもしれないですね。

野田村はもちろん、苫屋に訪れる旅人は、ここにしかない『時の流れ』を求めているのだと実感します。
野田村に暮らすかのように泊まる『苫屋』という宿のかたち。

縁でつながる
旅は終わらない

坂本夫妻の心に深く残るアイルランドも、野田村と共通点を持つスペインのガリシア州も、実はもともとはケルト民族の土地。ケルト特有の時間の流れが、夫妻を包み込む。だからこそ、同じような時の流れを持つ野田村にも、夫妻が海外で発見した『時の流れ』があるのかもしれません。

—— 二人が長い旅をしている意義というのは何だと思いますか?

久美子さん:私の場合は、ニューヨークの都会的で忙しい生活で自分を見失いかけてた時に、夫にアイルランドの旅に誘ってもらって、訪れたアイルランドではどんどん田舎の方へ田舎の方へと言葉もわからないまま移動を重ねて、「日本に向かうんだ」っていう気持ちと、日本に近づくにつれて都会と田舎での暮らしの違いをすり合わせていくことで、等身大の自分になっていったんだと思います。

もしあのままニューヨークにいたら、私はひどく疲れたおばあちゃんになってしまっていたかもしれない。人を蹴落として自分のことだけしか考えられない人間になってしまっていたかもしれない。

—— 最後に、ここ野田村の話を聞いてみたいのですが、日本に戻ってきて、国内のさまざまな場所も旅した中で「ここがいい」となったと思うのですが、旅を終えようと思って野田村に行きついたのか、野田村に出会ったから旅が終わったのか、どちらですか?

充さん:いや、まだ旅は終わってないですよ。旅は続いています。

久美子さん:野田村が楽しいんですよ。ずっと楽しいから30年もいるの(笑)。

充さん:なんて言うのかな、簡単な話で、きれいな川があって、渓流釣りに行っていた時代もあったし、きのこや山菜を取ったりして過ごしたり、今は農業もやったりもしていて、田んぼなんて1年に1回しかできなかったりするから、30年でも30回しかできない。まだまだやりたいんですよ。

久美子さん:食べるものひとつ取っても、今までに食べたことがないものがあったり、それを食べるとすごくおいしくて、あまりのおいしさに私の今までの人生って損していたって思ったくらいです。それから野田村の食材の魅力に気づいていくんですが、豊かな海と山があって、小さな村だから生産者さんの顔も見えるしすぐ届くんです。どれだけ東京のスーパーでお金を払っても野田村の方が獲れたてで新鮮。この村の規模だからこその一体感が、野田村の「食」にはあるんですよね。

—— 少しいじわるな質問かもしれないのですが、海や山が豊かで野田村くらいの規模の田舎は日本中どこにでもあるかと思うんですが、なぜ野田村だったんですか?

久美子さん:確かに四国なんかに行けばそういうところはあるんでしょうけど、だいたいどこも大きな町が近いんですよね。その点、野田村は大きな町が遠いから行くにしても自分の中のスイッチが移動中に切り替えやすい。なんせ盛岡まで4時間ですから(笑)。

充さん:あとは縁ですね。苫屋があって、隣に住んでいるおばあちゃんが遊びに来てくれたり。都会が遠いと生の音楽ライブが聞けなくて寂しいなと思ってたけど、それなら呼んだらええやんって、仲間のミュージシャンが来てくれるようになって。そういう人のつながりや縁がここにはあるなと。人口密度と都会との距離、それが縁となって人の心をとらえるのかもしれません。野田村には最良の「ご縁の密度」がある。だから、ここに30年もいついてしまったのかな、と。野田村パエリアも、おそらく人が集まる時に作られるもの。「人と人との縁を結ぶもの」として定義づけできたら良いかな、と思います。時の流れとご縁の密度というのが、『野田村パエリア』の本質なんじゃないかな。

久美子さん:これよりもう少し大きな村になってしまうと、まわりが見えなくなってしまうかもしれないから、ここの人口密度がちょうどいいんです。スペイン人との共通点とも言えるんですが、性格的に人と人の距離感がちょうどいいんです。すぐに友達になるというより、最初はちょっと距離を置くけれど、仲良くなるとゆっくりじっくり深い関係になれるなぁと。以前、震災の後、スペイン大使に、その共通点がうれしくて、野田のホタテの貝殻と防潮林の黒松で作ったストラップをプレゼントしたんですよ。そしたら「スペインの香りがした」と言ってくれて。遠く離れていても、縁を感じられるし分かり合えるんだってわかってすごくうれしくて⋯。

—— 野田村パエリアプロジェクトもそうですね。スペインに行ったことはないですが、遠い異国に縁を感じてみんなで楽しんでいます。

久美子さん:そうですよ。みんなで縁を感じながら作るのが野田村パエリアプロジェクトのいいところなんですよ。本場スペインのシェフのエンマさんが野田村にいらっしゃったのも縁だし、ホタテ、山ぶどうワイン、野菜をみんなで持ち寄って、得意な人が得意なことをやる。それぞれがそれぞれのいいところを引き出しながら、みんなで1つのおいしいものを作るために集まる。それも縁です。材料は毎回違くてもいいし、正解もなければゴールもない。だけど、集まると楽しい。そんなプロジェクトになるといいなって。

—— 野田村パエリア作りを通じて『縁』を作っているということなのかもしれませんね。

充さん:そういう縁が、たくさんできるプロジェクトになっていくといいね。きっと学生たちもいろいろ考えているんだろうからね。

久美子さん:きっと言葉にしないけれど、胸にたくさんの想いを秘めていると思いますよ。

トークイベントはこの後も、学生たちの坂本さんたちに対する人生相談とも言える質問コーナーなどで花を咲かせます。

坂本夫妻ありがとうございました!

世界中を旅し、野田村に特別な『時間の流れ』を見つけた坂本夫妻。それは自分らしさを取り戻すための時間であり、自分らしく人と人とが向き合うための時間でもあることを、さまざまな国での体験から、教えてくださいました。

それは内外から見た野田村の魅力でもあると同時に、ON と OFF をゆっくり、自分らしさを保ったままスイッチできる『野田村ON&OFF Village』の魅力でした。

引き続き 野田村 ON&OFF Village では、スペインとパエリアをキーワードに、野田村の魅力を掘り下げていきたいと思います。次回のインタビューもお楽しみに。

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