野田村 ON&OFF Village

そうぞうりょくがつながる、岩手・野田村ワーケーション。

野田村 ON&OFF Village

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ON & OFF MAGAZINE

ON & OFF INTERVIEW #02

インタビュー #02
野田村でつながる「おいしさ」

ON & OFF INTERVIEW #02

インタビュー #02
野田村でつながる「おいしさ」

UPDATE:2022.03.14

写真:熊谷 義朋(人物)

野田村の魅力や課題とワーケーションを「ものがたり」でつなぐ『ON & OFF INTERVIEW』。第2弾は、野田村の魅力の1つでもある「食」から考える野田村のワーケーション。

ゲストとして、野田村の名産「山ぶどうワイン」の醸造所「涼海の丘ワイナリー」の所長でシニアソムリエの資格を持つ坂下誠さん、全国に誇る野田村ブランド「荒海ホタテ」の漁師で、その魅力を発信する「荒海団」のメンバーでもある安藤正樹さん。そして、野田村きっての料理人で正樹さんの奥さんの智子さんにお越しいただきました。

積極的に集まり、ワインを傾けながら「野田村の食の未来」について語ることの多いという野田村出身の3人と、ワーケーション拠点の1つ「庵日形井」の囲炉裏を囲みながら、野田村でつながる「おいしさ」について、そして食文化における課題について伺いました。

※ 2泊3日のワーケーション体験のプログラムとして、映像作家の北村さんと、女優でモデルの八木さんにも引き続き参加いただきました。

手間を惜しまない
野田村の「そうぞうりょく」

八木:今回のワーケーション滞在中に「山ぶどうワイン」いただきました。今まで体験したことのない独特な風味を楽しませてもらったんですが、通常のぶどうとの違いってなんですか?

坂下:よくぞ聞いてくださいました(笑)! 話出すと止まらないので自分からは話さないでいようと思ってたんです。

シニアソムリエの資格も持つ坂下さん
涼海の丘ワイナリーにて

坂下:実はワインに使われているカベルネ・ソーヴィニヨンやピノノワールなんていう海外のぶどうの品種も、もともと山から獲ってきたものなんです。でも「雄雌」がないんですね。イチョウの樹なんかもそうですけど、山ぶどうは雄雌の両方を育てて交配させないと実がつかないのが特徴ですね。それと種が1つのぶどうに比べて山ぶどうは実が小さいのに4つも入ってる。これが加工するとなるとやっかいで、搾汁率がぐんと下がるんです。収穫した果実の50%が果汁でもう半分は種として廃棄してしまう。それで商品の値段もあがってしまうし、これをなんとかしたい。副産物としての「種」に着目してグレープシードオイルというのも考えているんですが、なかなか手がまわってないのが現状なので、ワーケーションに来られる方と一緒に商品開発などで協業できたらいいなと考えたりしています。

ブルーベリーのような小粒の実をつける山ぶどう
(写真:涼海の丘ワイナリー提供)

—— 今後「野田村 ON&OFF Village」でのワーケーションでは、山ぶどうの収穫体験もできたりしますか?

坂下:もちろんその予定です。ただ、野田村で本格的に山ぶどうワインの事業がはじまった2016年から山ぶどうが日本一の生産量になった2018年にかけて、畑もだんだん落ち着いて、安定した量のワインが作れるようになり、これからだと思った矢先にコロナで、体験ツアーが組めなくなったんです。

北村:確かに⋯。それにしても生産量日本一なんですね!すごい!


坂下:畑を見てもらうとわかるのですが、はじめて来た方は必ず感動されます。というのも「山」のぶどうなのにすぐ近くに「海」が見えるんです。そこでランチを楽しみながらワインを飲んで、おみやげを持って帰ってもらう。さらに自分が収穫したぶどうがその年のワインになるなんてうれしいじゃないですか。おいしさも届けたいんですが、やはり体験も届けたいんです。

山ぶどうの収穫の様子
(写真:涼海の丘ワイナリー提供)

八木:「荒海ホタテ」のおいしさを友人にも伝えたいなって思うのですが、通販でも買えますか?

正樹:時期にもよるんですがなかなか難しいかもしれません。若い漁師も減ってしまい、まだまだ市場やオンラインでの提供が安定しない状況で。それにその日の気候や温暖化で海の状態も左右されるので、ここ10年は地球規模の悩みや不安になっています。ただ、私たちのホタテが「荒海ホタテ」として認められるようになってからは、獲れたら獲れた分だけみんなに食べてもらえるようになって、全国どこに出しても「おいしい」と言ってもらえるので、なんとか切らさないようにという思いです。

野田村出身の漁師の安藤正樹さんは「荒海団」のメンバー。

正樹:育てる環境と育てる技術でホタテっていうのはおいしくなりますからね。野田の漁師は昔から手間を惜しみません。一般的には潮の流れの穏やかな内海で縄で吊るして育てるのですが、野田村は近隣と比べると海が荒くて、吊るしただけだと落っこちてしまうので、プランクトンの豊富な外海まで出て、籠で海を泳がせるように養殖しているんです。もちろん台風のリスクはあがりますし労働は過酷になります。大量生産はできませんが、こうして作るホタテこそおいしいホタテだと胸を張って言えます。野田村の「おいしさ」っていうのは、自然の恵みを大切にして、手間ひまをかけることで成り立っているんです。

肉厚で味がしっかりしているのが特徴の荒海ホタテ
(写真:荒海団提供)

ホタテがつないだ
ふたりの出会い


— 正樹さんも智子さんどちらも野田村出身とのことでしたが二人の馴れ初めを聞いたりしてもいいですか?

智子:この人が浜に座りながら「俺はいつまで独身なんだべなーって」思いながら縄を引いたらその縄が私のレストランの前まで伸びてたの(笑)

東京のイタリアンレストランの料理人をしていた安藤智子さん

八木:そのエピソードステキ過ぎます!

智子:本当のことを話すと私が先に好意を抱いて会いに行ったんです。まだ20代前半の頃、上京して東京のレストランで働いてたんですが、知り合いから「テレビに野田村が出る」って聞いて。

正樹:ちょうど荒海団がはじまった頃です。日本全国の農家や漁師が8人くらい紹介される中の1人でしたかね。まったくしゃべりに自信がないのに出演したのを覚えてます。

智子:私、東京にいながら野田村大好きっ子だったので観たかったんですよ。でもレストラン忙しいしその日は見れないかなーと思っていたらたまたま半休になって見れたんです。そこに汗をダラダラ流しながら話してるこの人が映ってて(笑)。部屋でワインを飲みながら「一生懸命で素敵な人だなぁ」「こういう人と結婚できたらなぁ」というのは漠然とあったんですよね。

八木:運命ですね!

北村:智子さんが野田村に戻るのはいつごろなんですか?

智子:そのテレビのあとすぐ。東京にいながらもずっと野田村を拠点に「食」で復興支援をしたいなとは考えていて、レストランで修行もしたし、イタリアにも行ったし、野田村好きだし「そろそろ帰ろうかな」と。

正樹:そのあとまたテレビに出してもらえることになったんですよ。震災から3、4年の復興活動ということもあったのかもしれないのですが。

智子:その時はもう私も野田村に戻っていて、両親と祖父母と見ていたんですが、番組が終わった瞬間に家族みんなが私を見て「この人がいいんじゃないかね!」って言うんです(笑)。

正樹:またまた(笑)。ほかの荒海団のメンバーも出てましたよ。

智子:今は育休中で閉めているんですが、野田村に帰ったら地元の食材を使ったイタリアンのお店を出す!っていうのは決めていたので、どうしても荒海ホタテは外せなくて⋯はじめは下心抜きに仕入れの交渉をしに港に会いに行ったんです。でもオフシーズンだったのか何度通っても会えず⋯。オープンも迫っていたんで、正樹さんに会うのは諦めてホタテは他の人に相談して仕入れさせてもらったんですが、せめてプレオープンのお誘いの招待状を渡したいなって思って、ハガキを握りしめて海に行ったらやっと会えたんですよ!それがもううれしくて!

— 招待状の返事はあったんですか?

智子:へたくそな字で「一緒に野田村を盛り上げていきましょう‼︎」って書いてました。プレオープンのイベントが終わった後、そのまま「好きです」という想いを私から伝えさせてもらって。

でもしばらくなかなか相手にされずにいました(笑)。

正樹:いやー私がキムタクみたいな容姿ならわかるけど、16歳下の東京から戻ってきた若い女性がこんなおじさん相手するわけがないと思ってたんですよ。ただその後、何度か会って話をして、こちらからお願いして、嫁に来てもらったんです。

坂下:正樹くんのことはもちろん野田の若い漁師として知ってて、智子さんは私たちが東京に出展したりすると必ず駆けつけてくれる野田村出身の明るい女の子という感じで、その2人が結婚して野田村にレストランを作るとはその頃は思ってもいなかったです。今となっては村にいてよかったと思える2人ですね。それに、ワインや料理の専門的な話ができるのもそうですし、お酒を飲みながらいろんなことを腹割って話せる仲間です。

野田村の「かだい」と
野田村の「みらい」


— 3人で集まるとどういった話をされるんですか?

智子:野田村の食の未来の話がメインですね。

坂下:ワインやホタテ、わかめや豚や塩もそうですけど、イタリアンだけにとらわれずに地元の郷土料理やしょうゆや味噌、豆腐なんかもアレンジしてみて、何をどうやったらおいしくなるかなっていうのを研究したり、できるだけみんなが気軽に楽しめる名物を考えながら、いつかたくさん野田村に人が訪れる日がくるといいねっていうのをずっと話してます。

智子:そういえば3人で集まるようになった頃って、荒海団は話題でしたけど山ぶどうワインはまだそんなに知られていなくて、よくよく思い返せばここ数年であの時に話していた未来に近づいているなって思うんですよね。ワイナリーもなかったし、村に料理とワインのこと話せる人も少なかったんです。夢が実現されていってる気がしています。

坂下:この先は山ぶどうの量は日本一なんで、あとは地道に真面目においしいワインを作って、できるだけたくさんの人に飲んでもらうのが大切なのかなと。山ぶどうのネガティブなイメージを払拭したいっていう思いはずっとあるし、農家さんが20年くらい手塩にかけて育ててきた良い樹がたくさんあるんです。これは明らかに野田村にしかない文化なんです。そんな中で仙台まで高速道路が1本でつながって「野田村 ON&OFF Village」もできて、オンラインでもオフラインでも都市部とつながりはじめています。あとはワインの味でも日本一になってホタテに負けない野田村の名産として胸を張りたい。野田村にもっとたくさんの人に来てもらうための仕組みを作りたいんです。

智子:熱いでしょう(笑)。こんな感じで本当にずーっと話してられるんですよ。

坂下:話していると喉が渇くんで、いつもワインやビールを舐めてます(笑)。

智子:今度は私からみなさんに聞きたいんですが、はじめて野田村に来て、ワーケーションを体験してみてどうでしたか?

八木:会う人会う人みなさんが「はじめまして」とは思えないくらい優しくて、ふるさとに帰って来たかのような懐かしい気持ちになりました。伝統文化もちゃんと残っていて感動しました。東京はたくさんものがあるけれど、東京にないものがここにはたくさんあるなって感じました。

正樹:何かおいしいものは食べましたか?

八木:私は食べることが好きで、実は野田村の滞在中はほぼ食べてばかりだった気がします(笑)。帰りにたくさんお土産を買って友だちにも野田村のおいしいもの、たくさん教えてあげようと思っています。

正樹:楽しめたならよかったです。なんもないからいつも心配になっちゃうんです。

北村:ぼくも千葉で海と山に囲まれて住んでいるんですが、似ているようで全然違ったスケール感や美しさがあるんだって驚きました。自然の中での仕事ははかどるし、癒されると改めて思ったんですが、見慣れた千葉の自然ではそうならない気がしました。釣りが好きなので釣竿を持ってくればよかったというのだけが後悔です。

坂下:今度穴場に連れて行きますよ。ぜひ一緒に魚釣りを。

智子:ぜひ今度来たときは海の魅力を *Youtube で発信してください!

*北村さんは映像作家でもありながら Youtuber として自身のチャンネルを持っている。
https://www.youtube.com/c/MINILIFEch

正樹:ぜひカメラを持ってホタテ漁の船にも乗ってみてください。獲れたてのおいしいホタテが食べられますよ!

野田村で一番好きな景色「大唐の倉」の前で記念撮影


— Youtube での発信もそうですが、この先「野田村 ON&OFF Village」に訪れる人たちに求めることってありますか?

坂下:「荒海ホタテ」もそうでしたが、野田村にいるとそれが当たり前過ぎて、私たちがその魅力に気づけていないっていうことが多々あります。身内だけで頭も凝り固まってしまっているので、外からの視点や世代を超えた人たちの感覚で、もっといろいろ意見や提案をしてもらえたらうれしいですね。

正樹:情報発信は漁師としても村としても課題ですね。村にも発信をがんばってる人間はいますが、自分たちの考えもアップデートして、できる限り SNS もやらないとなっていうのはわかってはいるんです。ただ毎日の漁で手一杯というのもあるので、ワーケーションに来た人が漁の簡単な作業を体験として楽しんでくれて、外へ発信してくれたら助かりますね。

北村:収穫や漁を体験してみたい人、たくさんいると思います。

坂下:ありがとうございます。とはいえ今の構造では継続的な雇用はなかなか難しく、そうなるとなかなか求人は出しづらい。そんな時に、短期滞在でも村の事業に興味がある人、楽しめる人、発信力のある人たちが継続的にワーケーションをつないでくれたら村の可能性はまだまだ広がると思うんです。おいしくするためにやらなくてはいけないことはしっかりやってはいるんで、そこは任せてもらって、そのほかの部分で一緒に盛り上げていけたらうれしいです。

— 課題が可視化されると、その解決に向けて手を挙げやすくなると思います。他に課題と感じることはありますか?

智子:私は高齢化が心配です。若い生産者さんが本当に少なくて。村の人口の割に少ないって言う話ではなく、数人しかいないっていうレベルなんですよね。せっかくの野田村の宝物を、子どもたちの世代まで残してあげられるのかなって。

正樹:農家も漁師も、親から継ぐっていうのが当たり前だったけれども、そうも言ってられないんですよね。明るい未来が見えない今の状況じゃどうしても安定を求めて外へ出てしまう。だから今いる俺たちが「漁業は稼げるんだ」「夢は実現できるんだ」っていうのを背中で見せてあげないといけない。

正樹:考えることは山ほどありますが、やれることはあると思うので、まずは漁業体験から、いつでも受け入れられる準備をして待ってます。

智子:いますぐに野田で漁師になれっていうのは難しいので、せめていま野田村にいる子どもたちが、将来の選択肢のひとつに「漁師」って入れてくれるようになったり、野田村から出てった若者が私みたいに「なんか野田村いいかも」って戻って来てくれるようになるといいなと思っていて、そんな発信のお手伝いをしてくれる人がワーケーションで来てくれたらうれしいですね。野田村は基本ウェルカムな人が多いのでぜひ気軽に相談してもらえたらと。

坂下:いま野田村に住んで頑張ってくれている若手もそうですが、来てくれた人に甘えて任せっきりになるのではなく、しっかり「生業」にしてもらえるように価値を循環させたいと考えています。その仕組みも一緒に作っていきたいですね。高齢化も発想を変えれば「若い人がチャレンジできるのびしろがある」ってことだと思うんです。例えば世界初の「山ぶどう白ワイン」を作るための新しい品種を育てていて、それが成功しそうなんですよ。3年後、5年後になるかもしれないけれど、流れはできてるんです。時間はかかるかもしれないけれど、小さいところから大きいことができる可能性があるのが野田村なんです。「野田村 ON&OFF Village」を通じて、ぜひ野田村を一緒に盛り上げてくれたらうれしいです。

囲炉裏にくべた薪がパチパチと音を立てる中、
時間も忘れ、座談会は続きます。

小さな村だからこそつながる「出会い」と「物語」。こだわるからこそ生まれる「創造力」と「想像力」。海や山のある市町村は全国各地にたくさんありますが、3人の話からは、野田村にしかない可能性があり、野田村だからこそ実現できる夢があるのだということを教えてもらいました。それは OFF(課題)を ON(未来)に変えていく力であり、深く関わり話し合うことで生まれていくアイデアです。

「野田村 ON&OFF Village」では、引き続き野田村でのワーケーションの魅力を発信していけたらと思います。

今後の更新もお楽しみに。


・涼海の丘ワイナリー
https://www.suzuminookawinery.com

・荒海団
https://araumidan.jp

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