野田村 ON&OFF Village

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ON & OFF INTERVIEW #04

野田村パエリア〜学んで食べて国際交流〜

ON & OFF INTERVIEW #04

野田村パエリア〜学んで食べて国際交流〜

UPDATE:2023.03.20

写真:林永昌・川上 ミネ
 文:加藤 淳也

「盛岡までで4時間」

都営地下鉄の車内の中吊り広告に大きく書かれたキャッチコピーが話題を集めた『野田村』。そんな野田村ですが、遠いからこそ見ることができる美しい景色や、遠いからこそ、ここでしか味わえない新鮮な食材を楽しみに、そしてこの村に深い縁を感じて集まってくる旅人がたくさんいます。自然を愛するひとや、ここに流れる時間を求めて訪れるひと、三陸鉄道に魅せられて立ち寄るひとはもちろんですが、野田村 ON&OFF Village を通じたワーケーションや表現・創作活動をするクリエイターやアーティストもたくさん訪れています。

なんと、この方も野田村に魅せられたお一人です。

ピアニストで作曲家の川上ミネさんです。愛知県出身ですが高校卒業後はドイツ、スペインで学び、キューバをはじめとする中南米を旅しながら世界を股にかけて音楽活動を行ってきました。2000年からはスペインと京都を拠点にし、最近では帰国の度にここ野田村へ訪れてくれます。その度に、野田村の新しい魅力を発見しては「スペインに通じるものがある」と話してくれる川上さん。

今回、野田村 ON&OFF Village では、川上ミネさんをゲストにお招きして『野田村パエリア〜学んで食べて国際交流〜』を開催しました。会場となったのは野田村の民宿&カフェ『苫屋』です。前回貴重な旅の話を聞かせてくれた苫屋の坂本夫妻、そして野田村を愛する地域の方々はもちろん、台湾から野田村に来てくれた写真家の林さんも混ざって囲炉裏を囲みながら、まさに『国際交流』と言える賑やかな座談会となりました。

遠くて近い!?
野田村とスペイン

川上:みなさんお集まりいただきましてありがとうございました。今日をすごく楽しみにして参りました。野田村は来れば来るほど新しい魅力に気づかせてくれるところだなと感じながらいつも滞在させていただいていて、本当に大好きな場所です。

今日はですね、食べながら学んで、国際交流をしようということで、私が普段暮らしているスペインと野田村の似ている点をみんなでざっくばらんに話し合えればと思っています。

おもしろいですよね。こんなに遠く離れている2つの町が、なぜこんなにも似ているのか。例えば、いまみなさんの目の前にある囲炉裏ですね。スペインでもこんな風にみんなで火を囲んで、そこを中心に料理をしたり、おいしいにおいに包まれながらワイワイおしゃべりを楽しんだりしています。

そして私はピアノが専門なのですが上手か下手かは別として実は一番好きなのは料理でして⋯料理をしながらピアノを弾いているのか、ピアノを弾きながら料理をしているのかわからないくらい好きでして(笑)。ピアノを弾けば弾くほど料理がおいしくできるという日々を送っているので、今日はみなさんと野田村の食材でスペイン料理を作りながら楽しくお話しができればと思っています。

苫屋の囲炉裏で野田村産スペイン料理をみんなでいただきながら。

川上:いま炉端で作っているのは、スペインのガリシアに伝わる『カルド・ガジェゴ』というポトフのような料理です。ちなみにガリシアはこのあたりになります。

イタリアがブーツの形ならスペインはショパンの横顔に似てると話す川上さん。

川上:スペインの南はジブラルタル海峡を挟んでアフリカ大陸です。東には地中海があって、北にはフランス、ショパンの顔にあたる西側にはポルトガルがあるんですが、よく見ると顔全体が大きな半島になっているんですよね。イベリア半島と言って面積は日本の国土と同じくらいあります。州によってそれぞれ法律も違います。なのでスペインと言っても1つ1つの州が国のようになっているんですね。スペインに行くといってもどこに行くかで印象は変わると思います。

そんなスペインの首都は地図の真ん中のマドリード。なぜ真ん中にあるかと言うと、0キロメートル地点と言ってちゃんと王様が首都を作る時に測ったんです。それぞれ違った特徴を持つ海に囲まれたスペインの人たちは魚を食べるのが大好きなんですが、首都マドリードにはそれぞれの港の魚介が大集結します。私も最初留学した時は「お魚がおいしい」と聞いてマドリードを選んだんですけど、いざ暮らしてみると、野田村もそうですけど沿岸に近づけば近づくほどお魚はおいしいです(笑)。

苫屋の台所をお借りして料理をする川上ミネさんと野田村在住のシェフ安藤智子さん、
そして苫屋で料理を提供している坂本久美子さん。
スペインの料理の基本から、気づくことや学ぶことがたくさんあります。
週末になるとスペインでは昼間から食材をそれぞれ持ち寄って集まり、
ワインを片手に料理とおしゃべりを楽しむ。レシピはその時に決まる。
まさに『野田村パエリア』の真髄とも言える時間。
料理の締めとしてパスタかパエリアを選ぶこともあるという。
日本とは米に対する考え方が違うスペインですが、
無駄なく、おいしく食べたいという想いは一緒。
ちなみに深鍋の煮込み料理のことをスペイン語で『オジャ』と言います。

野田村に似ている ⁉︎
ガリシア地方の秘密

川上:いま私が住んでいるのはショパンの前髪のあたりに位置するガリシア州のサンチャゴなんですが、沿岸部は見ての通りリアス海岸になっています。風景はほとんど野田村と変わらないです。生えている黒松も、風の吹き方も本当にそっくりでびっくりするんですよね。違うのは三陸海岸は東に向いてて、スペインは西というだけ。

それと、野田村とスペインの共通点と言えばみなさんもお好きな『ワイン』ですが、数ある産地の中でも有名なのは北部の『リオハ』と内陸部の『リベラ』。面積の大半がぶどうの樹という珍しい地域です。中でもガリシアとも景色や気候が似ている『ビエルソ』という土地のワインが最近は人気で、私はビエルソのワインは野生味の溢れる土の感じと酸の雰囲気も含めて野田村の涼海の丘ワイナリー の山ぶどうワインに似ていると思っています。チーズに合ってとてもおいしいんです。

そしてもうひとつ。前回のインタビューで坂本夫妻もお話しされていたケルト人の文化が、野田村に似ていると感じるヒントのような気がします。

囲炉裏の火加減を見てくれているのは
前回のインタビューで旅の魅力をお話ししてくださった
民宿『苫屋』のご主人・坂本充さん。

川上:スペインは1200年ほど前はイスラム王朝の支配下にあったので、比較的中央部から南部はアンダルシアの『アルハンブラ宮殿』をはじめイスラム系の建築が残っていて、北部から東部にかけてはキリスト教が残っているんですが、実は私の住むガリシア地方だけはその影響をあまり受けずにケルト人の文化が残っているんですよね。

紀元前のヨーロッパ全土で国を持たずにさまざまな民族と交流して文化を発展させていった多神教のケルト人によるケルト文化は、前回、坂本夫妻が語ってくれたようにアイルランドやスコットランドに根強く残っていると思われがちなんですが、ガリシアもそうなんです。広いスペインの中で唯一、ケルト音楽の象徴でもある『ガイタ』と呼ばれるバグパイプもあれば、『ケルトの村』と言われる住居跡も残っています。

ケルト文化に、野田村の魅力を見つけるヒントがあるのかもしれません。

——

— ケルト文化が根付くアイルランドから野田村にたどり着いた坂本夫妻。そして、ケルト文化が残り、スペインの中でも『異邦の地』ともされるガリシアから野田村に魅せられて通っている川上ミネさん。野田村とのつながりを探していくと『ケルト人』の文化を感じることができました。かつてヨーロッパ全土で繁栄した古代ケルト人も、美しいリアス海岸や豊かな海産物を求め移り住み、みんなで火を囲んで料理をしたりワインを片手に仲間たちと語らっていたのかもしれないと想像すると、それだけで夢がふくらんでいきます。

スペイン料理はとにかくパンと一緒に!
お皿のソースをきれいに食べるためのパンでもあります。

ガリシアの聖地が
野田村と重なった日

川上:みなさんは『サンチャゴ巡礼路』って聞いたことありますか? 

ガリシアのサンティアゴ大聖堂を目的地とした巡礼路で、主にフランス各地からスペインとの国境に連なるピレネー山脈を経由しスペイン北部を通る道なんですが、800キロという道のりを歩いて巡礼するんですよね。今でも年間で10万人ほどの人が訪れます。一説によると聖堂にはキリストの十二使徒の中で秘書的存在だった聖ヤコブの遺骨が埋葬されていると言われていて、世界三大聖地のひとつに数えられています。イスラム王朝からキリスト教国を取り戻すという歴史的にも大きな戦いの時に、王様の夢に『聖ヤコブ』が出てきて突撃を指示するんです。それでキリスト教徒がスペインを取り戻したという歴史もあって。

その『聖ヤコブ』をスペイン語で『サンチャゴ』と言うんですよ。そしてここでもう1つ、野田村との共通点なんですが、『聖ヤコブ』つまり『サンチャゴ』を象徴するのが実は『ホタテ』なんですよ。サンチャゴは多くの料理にホタテが入ってますし、家の壁にもホタテの貝殻が使われている古民家がいまでも多く残っています。(笑)。

外壁がホタテでできた建造物。大量に獲れる殻の再利用はまさにSDGs。

川上さんが見てきた
サンチャゴの風景

川上さんがスペインで撮影してきた写真です。

川上:サンチャゴがなぜホタテなのかというのは諸説あるのですが、巡礼をする信者たちは聖ヤコブに会いに行くのにこのホタテの貝殻をお守りとしてぶら下げて歩くんです。なのでガリシアのひとたちにとってホタテは国のシンボルでもあって、ホタテはすごく重要な貝なんです。そして長い巡礼を終えた旅人たちがこの小さなサンチャゴの町に集まって喜び讃えあっているんですよね。

巡礼を終えた人たちがサンチャゴで何をするかというと、おいしい魚介の料理をたくさん食べて、ワインで乾杯するんです。なので365日がお祭のような町なんです。

— 野田村の人たちも大切にしている名産の1つ『ホタテ』が、遠く離れたスペインという国では象徴であり、旅人たちをもてなし、喜ばせている食材にもなっています。

1つの目標を達成するために集まった旅人たちが、地元の人たちにもてなされて、みんなでホタテの料理を囲み、ワインを片手に喜び合う。野田村が目指す未来の交流のヒントが、サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼の旅から見えたような気がします。

囲炉裏でじっくりと煮込まれた『カルド・ガジェゴ』も完成した頃、川上さんのオススメのワインやスペインの *ピンチョス が振る舞われ、会話が弾んでいきます。

*ピンチョス ⋯ スペイン語で串(pincho)の意味。食材を食べやすく串に刺し、盛り付けた前菜や軽食。チーズやオリーブ、生ハムなどワインによく合う具材が使われる。日本でいう手巻き寿司感覚で楽しめる。

それぞれがそれぞれの立場で馳せるスペインに対する想い。サンチャゴで巡礼の喜びを分かち合う旅人たちと、『野田村パエリアプロジェクト』を成功させようと苫屋に集まった仲間たちの姿が、重なっていきます。

野田村パエリアのテストキッチンで本場スペイン料理のシェフ・エンマさんが教えてくれた本場のパエリアの味。みんなで集まって作って楽しむことの大切さ。前回、坂本夫妻が語ってくれた野田村に流れる時間のことや人や食材との距離のこと。そして今回改めて川上さんが教えてくれた野田村とスペインの共通点とも言える美しいリアス海岸、そこで育まれるぶどうから作られるワイン、その土地の象徴とも言えるホタテ。

「なぜ私たちは野田村でパエリアを作るのか。」

その理由が自然とわかってきた気がします。

みんなで協力しながら作ったおいしいスペイン料理の数々に舌鼓を打ちながら、野田村の宴の時間はゆっくりじっくり過ぎていきました。

川上ミネ
旅するピアニスト・作曲家。日本、スペイン、中南米各地の情景を色彩豊かに音で表現する。NHKの番組音楽を多数担当。世界の名だたる大聖堂や寺社で史上初の演奏会を敢行する独特な演奏家。サンチャゴ・デ・コンポステーラ(スペイン)と京都を拠点に活動。

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